第一部 胡弓独奏
第二部 地歌と胡弓 柳川三味線とともに という構成になっています。
それぞれの聴きどころをご紹介いたします。



<第一部 胡弓独奏 の聴きどころ>
胡弓は江戸時代初期から日本に伝わる伝統楽器で、三味線や箏の演奏家が胡弓の演奏を兼ねることにより、その音色が磨かれてきました。その反面、独奏楽器として正面から取り上げられる機会がほとんどないまま今日に至っています。江戸期の胡弓本曲、現代の胡弓独奏曲、さらに低音絃を拡充した四絃胡弓の独奏曲から胡弓独奏の可能性に迫ります。
一曲目「蝉の曲」は、現在たった3曲しか伝わっていない古典三絃胡弓の本曲の中でも、最も演奏される機会が少ない曲です。恋の終わりを予感した女性の嘆きの表現に、胡弓ほどぴったりマッチする楽器があるでしょうか。
二曲目「襲(かさね)」は、胡弓の伝統的な重音奏法「合わせ弓」を応用して作曲した作品で、曲全体の9割以上が重音でできています。和楽器の中で持続音が出せてなおかつ和音が出せる楽器は、胡弓と笙ぐらいのものですが、伸びている音程をなめらかに変化させられるのは胡弓だけです。その利点を最大限に発揮しつつ、尺八の古典本曲や三味線音楽など邦楽の他種目の音楽性を取り入れ、胡弓独奏の可能性に挑んだ作品です。
三曲目「恒河沙」は、低音絃を拡充した奏者オリジナルの四絃胡弓のための独奏曲です。
音域を広げることにより広がる表現力の可能性を探究する作品です。

<第二部 地歌と胡弓 柳川三味線とともに の聴きどころ>
胡弓の音色は、京都・大阪を中心に発達した三味線音楽「地歌」との密接な関わりの中で磨かれてきました。特に京都においては、柳川三味線と胡弓の組合せが、京舞の舞地の定番として愛されています。
もともと、私が学生時代に京都で地歌の胡弓の手ほどきを受けた頃は、毎週のように柳川三味線と合奏して頂いていました。その頃はボーンという独特な音の三味線だな、というぐらいだったのですが、今のように三味線が細棹・中棹・太棹と枝分かれする前の姿を伝える、ほとんど京都にしか残っていない貴重な三味線だと後で知ることになりました。
そこで教わった胡弓の役割は、歌と三味線より出しゃばらず控えめに歌と三味線の間の旋律をなぞって彩りを提供することでした。とても細い絃をかけて、ユリ(ビブラート)を控えめに、小さな小さな音で演奏するスタイルでした。
それから大学を卒業して京都を飛び出し、胡弓の可能性を求めて、胡弓を使用する地域芸能や、義太夫節の胡弓を学び、それから地歌の中でもより胡弓の独立性と技巧を重視する名古屋系の胡弓を学びました。
胡弓が独奏楽器として自立できるために次第になるべく大きな音が出せるように太めの絃をかけたり、張力がしっかりかかるような楽器の設計や奏法を20年にわたり追求してきました。
その甲斐あってピアノやシンセサイザー、和太鼓、津軽三味線、アフリカンドラム、世界の様々な伝統楽器と胡弓のコラボレーションをこなしてきました。
一方で、地歌の胡弓パートがまだない作品に取り組んだり、普段のお稽古で教える曲は大半が地歌曲だったりと、胡弓と出会うまでは未知の音楽だった地歌とも長いお付き合いになりました。
そんな折に到来したこのコロナ禍で、これまでの歩みとこれから向かう方向を見つめ直しました。そこで見えてきたのが、自分が追求してきた胡弓の華やかな技巧性や表現力の幅広さとは真逆の方向性をもつ、柳川三味線です。三味線の古態を伝え、控えめで抑制された奥ゆかしい柳川三味線にどうやったら自分がこだわって追求してきた胡弓の表現が悪目立ちせず常に必要とされるようになるか、とことんじっくり向き合ってみたいと考えるようになりました。
胡弓の位置付け、役割を熟考した上で、各派で伝えられる胡弓の手法の長所を取り入れ、地歌を引きたてつつも、対等に会話できて常にお互いを必要としあえるような胡弓のスタイルを目指しました。
地歌舞が盛んな上方の趣向にもあうような、また尺八や笛とも異なる、胡弓ならではのアプローチを古典の枠組みの中で私なりに追及しました。
おそらく料理に例えると、面取りとか下茹でとか筋切りとかちょっとずつのひと手間の積み重ねが、シンプルな最小限の味付けにした時に絶対的な仕上がりの違いを生むような。胡弓のちょっとずつの技術と経験と工夫の積み重ねが、地歌と同化して初めから当たり前にそこに一緒にいるような。もちろん胡弓は初めの頃から地歌とともにあるのですが、そんなスタイルにさらに近づくために必要だった長い回り道になっていたらよいなと。
合奏にあたり苦労したのが、音量です。しっかり鳴るように追求してきた私の胡弓では、繊細な柳川三味線の音をかき消してしまいます。細い絃と太い駒でできるだけ小さな音が出るよう工夫を重ねて、やっとバランスがとれました。でも、広いホールの舞台では音があまりに小さすぎてお互いの音があまり聴こえず、ものすごく集中して聴き耳を立てながらの収録でした。
「ゆき」「虫の音」ともに地歌を代表する名曲で、上方舞での人気も高い曲です。
じっくり反芻するごとにしみじみ味わい深いようなものにできていたらよいなと。
これからの方も、すでにお聴き頂いた方も、30日までぜひお楽しみ頂ければ幸いです。
ぴあライブストリーミングにて、11月30日まで配信中!
【ぴあ 木場大輔 胡弓 ウェブリサイタル 特設ページ】
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