〈胡弓の調絃の種類と名前〉
胡弓の調絃法は、三味線と共通点が多く、その名称は三味線に由来します。
実際の高さは、歌の声の高さなどの都合で相対的に変化します。洋楽器が絶対的な調弦の高さが決まっているのに対し、邦楽器の調絃はその時々の都合で基準音が変わる相対的なものなので、注意が必要です。
胡弓の場合、一の糸は低くて二本(B♭)から高くて八本(E)ぐらいまでで、胡弓楽では六本(D)が基準となることが多いです。
ここでは一の糸を六本(D)にとった場合で説明します。
その前に…邦楽器では、低音側の絃から順に一の糸、二の糸、三の糸と呼びます。
ギターやバイオリンなどの洋楽器で高音側から1弦、2弦、と呼ぶのと全く正反対なので気をつけて下さい。
■本調子(ほんちょうし)
一の糸と二の糸が完全四度、二の糸と三の糸が完全五度となる調絃です。
一の糸を六本(D)にとると、DGDとなり、
三の糸が一の糸のちょうど1オクターブ上となります。
胡弓ではほとんど滅多に使われませんが、三味線では最も多く使われる調絃で、全ての調絃名の基準となるので、理解しておく必要があります。
■三下り(さんさがり)
一の糸と二の糸、二の糸と三の糸がともに完全四度となる調絃です。
本調子から三の糸を一音下げるとこの調絃になることから、この名前がついています。
一の糸を六本(D)にとると、DGCとなります。
胡弓では最も多く使われる調絃です。胡弓本曲、地歌、箏曲を含む胡弓楽の9割以上がこの調絃で行われます。
全ての絃の音程の間隔が完全四度となるので、四度調絃とも言えます。
■二上り(にあがり)
一の糸と二の糸が完全五度、二の糸と三の糸が完全四度の間隔となる調絃です。
本調子から二の糸を一音上げるとこの調絃になることから、この名前がついています。
一の糸を六本(D)にとると、DADとなります。
義太夫節、歌舞伎の「阿古屋」、五箇山民謡、天理教みかぐらうた、などで使われるほか、一部の胡弓楽でも稀に使われる調絃です。
ほかにも、宮城道雄曲で使われる大胡弓(宮城胡弓)の調絃は、GDGの二上りが基本となっています。
ほかにも一下りや六下りなど、三味線には色んな調絃がありますが、胡弓では上記の三つを理解していればほぼ事足ります。
興味のある方は調べてみて下さい。
〈音名の対照表〉
1オクターブ内の12個の音名を、実用的な調子笛の本数、洋楽のアルファベット音名、伝統的な十二律による音名を対照表にまとめると次のようになります。
一本 A 黄鐘(おうしき)
二本 B♭(A#) 鸞鏡(らんけい)
三本 B 盤渉(ばんしき)
四本 C 神仙(しんせん)
五本 C#(D♭) 上無(かみむ)
六本 D 壱越(いちこつ)
七本 E♭(D#) 断金(たんぎん)
八本 E 平調(ひょうぢょう)
九本 F 勝絶(しょうせつ)
十本 F#(G♭) 下無(しもむ)
十一本 G 双調(そうぢょう)
十二本 A♭(G#) 鳧鐘(ふしょう)
※十二律の読み方は、平凡社『日本音楽大事典』による。
邦楽用調子笛 数字は本数 Dのところには6(六本)と対応する本数が書かれている
〈相対的な調絃とは?〉
例えば、六本の三下り(DGC)から半音ずつ下げると、五本の三下り(C# F# B)ができます。このように、それぞれの音程の幅を保てばどの音を基準音にしても、三下りとなります。例えば音が高すぎて声が出にくい、では半音下げましょうか、ということを、三味線や胡弓では楽器の調絃を下げることで対応します。相対的な調絃、というのはそういう意味です。
〈胡弓と三味線の調絃の対応関係〉
伝統的なレパートリーの大半を三味線音楽に頼る胡弓にとって、三味線の調絃との関係を理解しておくことは重要です。
多くの場合、三味線の一の糸の1オクターブ上に胡弓の一の糸をとり、三味線がどんな調絃であっても胡弓では三下りにするのが基本です。(ほとんどの胡弓楽、越中おわら節、尾張万歳など)
三味線が二上りの場合、胡弓もそれに合わせて1オクターブ上の二上りにする場合もあります。(五箇山民謡、天理教みかぐらうた、一部の胡弓楽)
またジャンルによっては三味線の一の糸ではなく、二の糸の1オクターブ上に胡弓の一の糸をとり、二上りとする場合(義太夫節)、三下りとする場合(円通寺人形芝居)などもあります。
〈胡弓の調絃早見表〉
一の糸の高さを基準音とし、その高さから相対的に二の糸、三の糸の高さが決まります。
一の糸の高さを六本にして三下りにする場合、「六本の三下り」のように呼びます。
胡弓楽(胡弓本曲、地歌、箏曲含む)は、通常六本の三下りが標準。上下することもあるが、通常四本から六本ぐらいまでが多い。
義太夫節は二上りで、通常五〜六本が多い。
越中おわら節は三下りで、現地保存会では五本が標準だが、一部流派や全国版では歌い手の高さに合わせてかなり自由に上下させる。
尾張万歳は三下りで、通常四本ぐらいが多い。
天理教は、二本の二上りが標準。
大胡弓(宮城胡弓)は、G(下十一本、双調)の二上りが標準。
■三下り
一本 A D G
二本 B♭(A#) E♭(D#) A♭(G#)
三本 B E A
四本 C F B♭
五本 C# F# B 越中おわら節 現地保存会での標準調絃
六本 D G C 胡弓楽の標準調絃 尺八の一尺八寸管に対応
七本 E♭(D#) A♭(G#) D♭(C#)
八本 E A D 尺八の一尺六寸管に対応
■二上り
下十一本 G D G 大胡弓の標準調絃
下十二本 A♭(G#) E♭(D#) A♭(G#)
一本 A E A
二本 B♭(A#) F B♭(A#) 天理教の標準調絃
三本 B F# B
四本 C G C
五本 C#(D♭) G#(A♭) C#(D♭)
六本 D A D
ちなみに、私は洋楽器と合わせたり古典以外の曲、琵琶の入る編成など、必要に応じて八本の三下りもよく使っています。
三の糸は高くてDまでで、それより高い調絃になると糸が張りに耐えられず切れやすくなります。そのため三下りでは八本まで、二上りでは六本までが実用的な高さとなります。


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